頭頸部外科
甲状腺がん
- Ⅰ)はじめに
- 甲状腺疾患は、一般の方にも知名度も高く、日常診療においてもしばしば耳にする機会の多い疾患である。しかしながら、そこに発症した疾患を画一的に分類し対処することは、簡単のようでいて、難しいのである。それは、甲状腺が、小さい臓器にも拘わらず、内分泌臓器であり、悪性・良性を含めた新生物も多く発生しすると同時に、炎症や、過形成を伴う腫瘤性病変も発生するからである。そして、その大半は、経過がゆっくりな症例が多い。
本ホームページでは、当施設において遭遇する機会の多い、甲状腺結節性疾患(甲状腺腫瘍、腺腫様甲状腺腫、過形成、等)の当科における対処方法を提示する。
Ⅱ)新生物
A)悪性新生物
- i)甲状腺悪性腫瘍の種類
- 甲状腺に発生する悪性腫瘍は、頻度の高い順に、乳頭癌(90%)>濾胞癌(4~8%)>悪性リンパ腫(2~3%)、未分化癌(1~2%)、髄様癌(1~2%)、扁平上皮癌(1%以下)である。経時的変化で乳頭癌の既往患者が再発時に未分化癌となって発症して来院する場合も時にある。
それぞれの癌には、特有な臨床経過を示す場合が多い。乳頭状癌は局所リンパ節転移が多く発生するが、遠隔転移は比較的少ない。その予後は癌という診断名には不釣り合いなほど、経過の長いものが多い。濾胞癌では、血行転移が乳頭癌に比べて多い特長がある。髄様癌は家族内に発生(常染色体優性遺伝)する場合が多く、典型例では副腎褐色細胞腫や原発性上皮小体機能亢進症を合併している。未分化癌は現代医学では未解決の癌で、根治が期待できない病態である、進行度も極めて早い。悪性リンパ腫は非上皮性悪性腫瘍であり、専門的には“がん“ではなく、全身のリンパ節が系統的に悪性化した病態の一部が甲状腺内に発症したものと判断される。たまたま、甲状腺内にだけ発症している場合と考えられ、全身の化学療法を必要とする場合が多く、血液内科にて加療が行われる場合が多い。時に甲状腺内だけに限局し、手術だけで治癒に至る症例もある。 - ii)診断
- 臨床症状、触診、画像診断、細胞診、病理組織診断、等から、総合的に判断して付けられる。反回神経麻痺や頸部リンパ節を伴う場合は癌であることの診断が容易であるが、原発である甲状腺に限局した小さい腫瘍の合には確定診断が得れれにくい場合も多々ある。超音波下の細胞診が確定診断には一番信頼性が高いが、腫瘍が小さいほど、技術的な格差が一番生じやすい所でもある。二、三回の細胞診で良性と診断されたものが、手術により、悪性腫瘍と判明する場合もある。
甲状腺癌に対する特異的な腫瘍マーカーは存在しないが、甲状腺ろ胞細胞で作られるサイログロブリン(TG)の血中濃度が、腫瘍の病態の一部を反映していると考えられている。例えば、甲状腺全摘出後の治療効果判定でTGを追跡し、高値が生じてくる場合には、再発や転移が疑われるのである。ただし、TGは他の甲状腺疾患でも高値を示すことが多く、また穿刺吸引細胞診検査直後のTG値は高値となることが多いので、判定には慎重を要する。 - iii)治療を考えた場合の、甲状腺癌の位置づけ
- 甲状腺癌の治療は、施設間によって、その治療に対する考え方に大きな隔たりがあるといえる。その理由は、同じ頭頸部癌でも、扁平上皮癌を有する、舌癌や下咽頭がん、喉頭癌に比べると、予後の点で甲状腺癌はそれらの疾患とは明らかに一線を画しているからである。簡潔に述べるならば、甲状腺癌そのものは、充分に長期生存が期待できる病態であり、かつ、担癌で支障なく生活を送れる場合が多いからである。
従って、頭頸部癌加療を専門にしている施設では、甲状腺癌だからと言って、対象者全員に一律に手術を勧めているとは限らないのである。宿主の年齢や全身状態と病態の拡がり程度から総合的に判断して、対処方法を決めているのである。一般に、高齢者ほど経過観察に留めている場合が多いと言える。
甲状腺癌は、若年者にも高齢者にも学童を含めたあらゆる世代に発症する。そして甲状腺癌のうち、一番発生頻度の高いのが乳頭癌であるが、その発育速度が、通常は極めて緩慢という特長を有する。10年単位でその予後を考えても、それほど大過ない病態である場合が多い。従って、治療する立場から考慮する点は、壮年期や若年者に発症した場合には手術摘出を最優先し、高齢者ほど、手術による負担と生命予後等を総合的に判断して加療を決定している。 - iv)甲状腺癌治療がめざすもの
- 未分化癌や扁平上皮癌等の特殊な甲状腺癌を除いた、一般に遭遇する甲状腺癌では、予後が良好なため、根治性を求められると同時に、手術による後遺障害が僅少になるように努める必要がある。不幸にも肺転移が発症しても10年単位で生存が可能な場合も少なくない。遠隔転移が即生命予後と直結するものではない。甲状腺癌に於いては、局所が進行すると、早晩、気道狭窄や食物の通過障害が発症する。生命予後が良好にも拘わらず、食物の通過障害や気道狭窄が発症すると、それだけ患者に長期間に渡る負担をり強いる結果となってしまう。我々の施設では、肺転移等の遠隔転移が発生していても、甲状腺癌による気道や食道のトラブルが生じている場合には、それらを改善するためだけの手術も積極的に施行している。安心して呼吸が出来、生涯にわたり経口摂取が出来る状態を確保することは、在宅での生活を継続する上からも、そして社会生活を送る上からも重要である。特に経口摂取は人生の最大の喜びであり、癌の根治性を度外視しても、例え音声の一部あるいは全てを消失しても何とか確保したいものと考えている。気管切開の状態や気管切開と経管栄養の両方を抱えながら生涯を送ることは並大抵のことではないからである。
B)良性新生物
腫瘍が、原発部位の甲状腺内だけに小さく存在しているている場合には、悪性腫瘍との鑑別が難しく、確定診断に至るまでに時間を要することがある。
腫瘍(新生物)が「良性」であるか、それとも「悪性」であるかの診断は、触診、超音波下の穿刺吸引細胞診、CT,MRI等の画像診断、シンチグラム、等で総合的に判断して評価する。腫瘍が小さい場合にはターゲットとなる部位に穿刺針が当たらなかったり、腫瘍が硬く細胞を吸引できなかったりするため、細胞診断が得られない場合もある。二、三回穿刺吸引細胞診を施行し、良性腫瘍と診断がつけられたにも拘わらず、手術材料による組織診検査で癌と判明する場合もある。腫瘍が1cm以下の場合には微小癌として定義される事が多い。近年の超音波検査の進歩で、従来良性腫瘍と評価されてきたものが微小癌であると判明することが多くなってきた。また、良性との診断の下で手術を施行し、周辺のリンパ節の摘出で、その中に甲状腺癌が認められ、原発には甲状腺癌の存在が認められないケースもある。
この様に、簡単の様で甲状腺腫瘍が良性であると絶対的に言い切るには、難しい面を含んでいる。ただし、良性腫瘍と評価し、小さい癌であることが気がつかない場合でも、甲状腺癌そのものが発育が緩慢で、大事に至る場合がめったにないのが甲状腺癌の特長でもある。すなわち、癌である診断を付けるよりも、完全に良性である言い切る方が難しいのである。特に良性腫瘍である濾胞線種と濾胞癌の鑑別診断は極めて難しく、細胞診でも確定に至らない場合が多い。
従って、濾胞線種という良性腫瘍の診断がついている場合には、高齢者には経過観察で充分であるが、若年者には、手術を勧める場合が多い。腫瘍が発生していること事態が不自然なことであり、若年者ほど確定診断を付ける意味があるからである。また、手術を希望されない場合でも、一定期間は経過観察するように努めている。
- Ⅲ)非新生物
- 甲状腺にいわゆる“しこり”を発生する疾患が多いが、腫瘍でないことも多い。その典型例が“腺腫様甲状腺腫=ademomatous goiter”である。真の甲状腺良性腫瘍は、厳密な上では、“濾胞線種=follicular adenoma”だけであり、しばしば両者の鑑別が問題となる。腺腫様甲状腺腫は過形成病変であり、腫瘍ではない。単発性に発生する場合には特に、“腺腫様結節=adenomatou nodule“ と呼ばれる。両者を厳密に鑑別診断するためには、手術摘出による組織診断が必要である。
甲状腺癌と同じく、高齢者では経過観察で良いが、若年者ほど、確定診断の必要性・加療の必要性が生じてくる。




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