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総論

頭頸部領域とは

 “頭頸部”領域とは、英語の“Head & Neck”が直訳され、日本語として普及してきた用語です。一般的には聞き慣れない言葉と思われます。その範囲は、鎖骨から上の部分で、脳実質を除いた領域です。顔面皮膚や頭部・頸部の皮膚領域及び頭蓋底も含まれます。これらの部位は、人間の五感(味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚)との関わりが深いだけでなく、構音・構語・咀嚼・発声・嚥下、表情、等との動的機能に直接関与し、かつ、身体の個人的識別となる外表部で、整容面とも直結する極めて重要な部分でもあります。

 それらの領域に発症した疾患は、一般的には、耳鼻咽喉科で扱われる範囲ですが、特に発生したものが新生物や隆起性病変の場合には、頭頸部外科で取り扱われることが近年多く成っております。全国の癌治療専門病院における頭頸部外科や、大学病院における耳鼻咽喉科・頭頸部外科で取り扱われております。

 頭頸部領域に存在するこれらの機能は全て重要ですが、取り分け頭頸部腫瘍と関連付けて臨床的にもしばしば遭遇し問題となるのは、嚥下機能です。この嚥下機能は、生きるための基本であり、気道と食道(食物の通り道)との交通整理(嚥下)が安全かつ円滑に作動しませんと、いわゆる誤嚥という現象が発生し、肺炎の併発とともに生命維持の危機が生じることになります。従って、頭頸部領域に発生した悪性腫瘍の治療を考える場合に、加療後に、問題なく嚥下ができるかどうかが問題となり、主治医は治療に際し、嚥下機能の劣化が僅少になるように、あらゆる工夫・努力を最優先して考えるのです。

 頭頸部領域には、嚥下以外に、呼吸器としての系路、発声、咀嚼、など、人間に生来備わった原始的な働きが多数存在いたします。それらの機能の全部を完全に温存して治療することは、初期の癌ならいざ知らず、通常は難しく、程度の差こそあれ、それらの機能の一部に、何らかの後遺障害が発生せざるをえないものと判断されます。また、頭頸部領域は他の領域と異なり、身体の外表部にあるため、整容面でも、支障が生じる可能性もあります。従って、これらの人間の生来備わった機能(整容面・機能面)の損傷を、いかに僅少に押さえられるかどうかが頭頸部癌治療を考える場合に重要な要素となります。

 このことは裏を返せば、病気の宿主である患者自身が、頭頸部癌の加療に際し、病態を良く理解し、失うものと得るものとを、治療を受ける前に説明を聞き、状況を充分に理解することが大切になります。

頭頸部腫瘍と全身疾患との関係について

i)頭頸部がん発生の病因と重複癌について

 頭頸部に発生する悪性腫瘍の病因として、長期間に渡る慢性刺激が関係深いと言われています。飲酒、喫煙をはじめとする嗜好品や生活圏における環境因子、歯列などの解剖学的構造の因子も、悪性腫瘍の発生と関係があると考えられております。このことは、頭頸部癌の発生防止には、予防医学が如何に重要であるかを、物語っていることになります。取り分け、飲酒・喫煙等の慢性刺激は、通常はその刺激が頭頸部の特定の局所にだけ留まっているとは考えにくく、頭頸部以外の消化器・呼吸器系の臓器に影響を与え、同時性・異時性の重複癌を発生させる特徴が認められます。統計では。頭頸部癌の3割近くは、多重癌が発生すると言われております。また、頭頸部以外の癌病変が先攻して発症し、後になって頭頸部癌が生じるケースも少なくありません。例えば、胃癌の加療後10年余りして喉頭癌や下咽頭がんが発症するような場合です。
 もちろん、非喫煙者にも悪性腫瘍の発生を認めることもある。その特長として、貧血(低色素性小球性貧血)を長期間に渡り患っている方に多く認められます。その理由として血清鉄の不足が粘膜の修復機能が遅らせるためと言われております。下咽頭がんや舌癌を、飲酒と関係なく貧血のために発生する場合には、同時性、異時性に胃癌を発症する場合もあり、貧血の加療が重要となります。
 喫煙と発癌については、Brinkman Index【BI:喫煙本数 X 喫煙年数を掛けた数値。1日の喫煙本数×喫煙年数で表される。】が有名であり、この数値が400を超えると癌(がん)が発生する危険性が高くなるとされる。頭頸部癌のうち、喉頭癌については些細な検討が成されており、BI<600、は喉頭癌の発癌に有意差なし、600≦BI<1200は有意差有り、BI≧1200はハイリスク郡と言われている。

ii)頭頸部癌の発症土壌と全身の非癌系疾患との関係について

 喫煙や飲酒と関わりの深い頭頸部癌では、長年の間に、心臓の機能や肝臓・腎臓の機能障害を併発している場合が多く認められます。アルコールによる肝機能障害や糖尿病、及びそれに併発した腎機能障害なども認められ、更に最悪の場合は、強度の肝硬変を併発し、全身状態が悪過ぎるために、癌治療が全うできないことがあります。
 過度の嗜好品の摂取は、予防医学の上でも慎むべきものと判断されます。

頭頸部領域の疾患の概念(臓器と経路)について

 頭頸部に発症した病態を理解するためには、臓器と管腔経路の違いを理解しなければ、全体像が捉えにくいと思います。例えば、喉頭は臓器ですが、咽頭は臓器ではなく構造物の集合体である経路なのです。内容が少し難しいので、出来るだけわかりやすく説明いたします。

 新生物(良性、悪性を問わず)及び炎症性疾患は、臓器に発症した場合には、一般に理解しやすい病態と思います。解剖書や医学書に目を通してもわかりやすく、感覚的にも受け入れが容易なところです。例えば、胃癌や胃炎、肺癌や肺炎、膀胱癌、大腸癌、等の様に、身体に備わった臓器に発生した場合です。しかしながら、人間の身体は、臓器だけから成り立っているものではありません。臓器に到達するための経路や臓器を支えている構造体も必要なのです。そして、それらにも疾患がしばしば発生するのです。問題を複雑にしているのは、経路である管腔構造や支持組織にしても、一つの解剖学的構造体から成り立っているとは限らないという事です。

 頭頸部は、臓器と言うよりもどちらかというと、主として、体幹に存在する臓器へ通じる管腔構造物を中心に成り立っております。従って、臓器に相当するものは、少なく、唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)や甲状腺、喉頭、舌、眼球、聴器、と言った程度です。それ以外の大部分は管腔構造から成り立ちます。

 この管腔構造物は、気道系と食道系に大きく二分されます。気道系としては、肺である臓器に到達するためには、「鼻→上咽頭→中咽頭→喉頭→気管→気管枝→肺」、あるいは「口唇→口腔→中咽頭→喉頭→気管→気管枝→肺」、の経路が必要となります。食道系では、臓器である胃に到達するためには、「口唇→口腔→中咽頭→下咽頭→食道→胃」の経路が必要となります。問題を複雑にしているのは、“気道系経路と食道系経路とが完全に分離しているものではない”、と言うことです。部位によっては、気道系と食道系経の二つの機能を有する経路が存在している事です。その中心となるのは、中咽頭です。従って、中咽頭は、頭頸部領域では、極めて複雑な機能と構造体とから成り立っている所であり、頭頸部領域の機能を考えた場合に特別に部位なのです。

 ここで、もう一度わかりやすく説明いたしますと、中咽頭は臓器ではないのです。気道系と食道系の両方の機能を有する管腔構造物なのです。従って、中咽頭癌と病名がついた場合にも、喉頭癌や耳下腺癌の様な臓器に発症した癌とは異なった次元の癌であるという事です。皆さんは、ハーハーと口呼吸をやりながら、必用に応じて“ゴックン”と食物も飲み込めます。“これが空気だ!これが食物だ!”、と考えずに、行えるのです。このように、混乱せず、気道と食道の交通整理が何ら不自由なく行えるのが人間に生来備わった機能(本能)であり、生命維持に重要な機能なのです。この、気道と食道の安全な分離機能は、中咽頭の一番重要な役割なのであります。中咽頭をズボンにたとえるならば、おしりの部分に相当し、中咽頭より下位で、右足である、気道系経路の「喉頭→気管→気管枝→肺」と、左足である、食道系経路の「下咽頭→食道→胃→小腸→大腸→肛門」に分かれるのです。中咽頭以下では、気道系経路と食道系経路とが二度と交わることはないのです。

 このように中咽頭は、気道経路と食道経路の機能を備えた部位であり、かつ両者を100%完全に分離する働きを有する部位でもあるのです。従って、もし、中咽頭癌の治療のために中咽頭の一部を取り除かなければ成らない状況に至った場合には、術後に、気道と食道の交通整理が何処まで安全に行えるかが臨床的に大きな問題となります。生命の安全性を重視しいたしますので、中咽頭の切除範囲によっては、気道系と食道系の100%の分離が必要となる場合もあります。すなわち、喉頭を切除し、食物は経口摂取を可能とし、気道は喉頭摘出後の永久気管口から行う形を選択せざるを得なくなるのです。音声獲得は練習(リハビリ)等で訓練していただき、経口摂取が出来る状態を優先せざるを得ないのです。中咽頭癌の手術に際し、喉頭癌でもないのに何故喉頭の合併切除が必要であると説明を受けられた方は、その理由を納得がいくまで、充分に理解されることが必要です。もちろん中咽頭癌だからと言って、全例が喉頭の摘出が必要であると言う訳では決してありません。広範囲に中咽頭を切除した場合には喉頭を合併切除せざるを得ない場合がるということです。

 口腔を例に挙げましょう。口腔も臓器ではありません。舌、歯肉、口腔底、頬粘膜、硬口蓋、臼後部、等六つの構成体から成り立っており、全体で口腔を形成しているのです。そして、それぞれの部位に腫瘍が発生いたしますし、その症状や予後がそれぞれ異なっているのです。従って、一口に口腔癌と申しましても、舌に発生した舌癌と、口腔底粘膜に発生した口腔底癌、歯肉に発症した歯肉癌とでは、生物学的活性や発展様式が異なり、当然結果として臨床症状及びその予後も異なってくる事になります。

 下咽頭を例に挙げますと、下咽頭は喉頭の後側の管腔を形成している食物の通り道です。下咽頭の前壁は喉頭の裏面に相当し、下咽頭の後壁は頸椎前面となります。同じ食物の通り道でも食道とは大きき機能が異なります。下咽頭は前面には喉頭が有りますがその大部分は骨格筋である輪状筋の下咽頭収縮筋で被われております。一方食道は、不随筋の縦走筋で被われております。経口摂取された食塊は、意図的に骨格筋を動かし嚥下という作用を介して食道に入り込むのです。食道に入った食塊は、意志の力とは全く無関係に、重力と蠕動運動等の不随運動で消化吸収され、肛門近くまで送られ、最後に、随意筋で骨格筋である、肛門括約筋を介して体外に出て行きます。すなわち、意志の力で食物を摂取し、嚥下した後は、全て意志の働きとは全く無関係に食物は消化管を吸収されながら通過し、最後に意志の力で体外に出て行くのです。

 以上を総括いたしますと、頭頸部領域に発症する悪性腫瘍は、臓器よりも、管腔内に発生する場合が多く、腫瘍が進行したり或いは腫瘍に加療を加えることにより、気道系或いは食道系、或いはその双方に影響を与えかねない腫瘍であるということです。従って、発症した病態を患者自身が理解することが必要で、そのことにより、病気の加療に積極的に積極的に参加できる背景が必然的に生まれてくると思われます。受身の状態のままだけで加療を受けられるのは、その後に発生し自覚されると思われるさまざまな状況に立ち向かうには、ハードルを自覚せずにはいられないと思われます。

頭頸部領域に発生する病理組織像の特徴

1)悪性腫瘍

 頭頸部領域に発生する悪性腫瘍は、甲状腺癌を除くと、全体の5~8%程度といわれております。発生する悪性腫瘍の病理像には特徴があります。大多数が扁平上皮癌ですが、腺細胞由来の腺癌系悪性腫瘍や、非上皮性悪性腫瘍(悪性リンパ腫、肉腫)の発生も見られます。
 扁平上皮癌は、頭頸部癌の主体をなすもので、口腔・咽頭・喉頭・鼻・外表の粘膜や皮膚から発生し、放射線の感受性が高い特徴があります。分化度も、低分化型(主として上咽頭に発生)から、分化型まで様々です。腺癌系の悪性腫瘍は、大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)や小唾液腺(口腔、汗腺、気道分泌腺)に発生し、多彩な病理像を呈します。悪性度の極めて高いタイプから、生命予後が10年単位で考えられる低悪性度の癌まで様々で、放射線感受性が低く、治療の主体は手術となります。非上皮性の悪性腫瘍の大多数は悪性リンパ腫です。リンパ腺の存在する部位(扁桃、頸部、鼻、等)に発生する場合が多く、全身の系統的疾患の一部としてとらえます。B-cell型とT-cell型があり、その予後が異なります。治療の主体は全身への抗ガン剤投与が中心となります。限局している場合には放射線治療を追加する場合がありますが、手術はあくまでも診断をつけるだけの生検の目的で行われます。甲状腺腫瘍は、若年者を含めてあらゆる年齢層に発症し、その予後も、病理組織診診断医より、高悪性のものから、担癌天寿全う型まで様々です。
 非上皮性の悪性腫瘍として、最頻度は悪性リンパ腫です。B cellタイプが多く認められます。肉腫そのものの発生頻度は低く、若年者に多く認められます。横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、骨肉腫、脂肪肉腫、等です。

2)良性腫瘍

(咽頭、喉頭、鼻腔)の乳頭腫、甲状腺乳頭腫、甲状腺ろ胞線種、脂肪腫、平滑筋腫、唾液腺腫瘍、など、様々なものが発生いたします。
 唾液腺腫瘍では、良性と判断された場合にも、放置されている場合に、後日、悪性変化(malignant transformation)が発生し、がんとして再発する場合が時々あります。その場合に、良性腫瘍と判断されてから、二十年以上経過しての悪性変化が多く認められます。

3)その他

隆起性病変としての炎症、リンパ節炎、結核、サルコイドーシス、白板症、囊胞性疾患、真菌症、粘膜・皮膚症候群、等があります。白板症は以前は“前癌状態”といわれた時代もありましたが、病態によっては癌化が認められることもあり、要経過観察と判断されます。

頭頸部がんの進行度とその治療方法の概略

 あくまでも一般論ですが、 病期がⅠ期、Ⅱ期の非進行癌では、手術や放射線治療のどちらかが選択となり、大多数の症例においては、それで対応が可能となります。Ⅲ期以上になりますと、進行癌のため、手術、放射線治療、化学療法治療(抗ガン剤)の三者ないし二者の併用治療が行われる場合が多くなります。特に加療により機能損傷が著しいと判断される場合や、外科的切除が不可能な部位に対しては、癌細胞に直結している動脈に直接抗癌剤を注入する超選択的動脈注入療法を行っております。また手術による機能損傷が著しいと判断される場合には、血管吻合による遊離組織移植による即時再建術が、癌の切除と同時に行われ、根治性の向上とともに術後の機能温存・回復を目指しております。即時再建は入院治療期間の短縮にもなっております。

 頭頸部癌は、どんなに初期の癌であっても、再発するリスクがあります。従って、癌専門病院では初期癌に対しては出来るだけ単独で簡単な治療方法を選択するように心がけております。放射線、手術、抗癌剤の全てを初期癌に対して使ってしまうと、再発した場合に、有効な治療方法を選択できなくなってしまうからです。

 頭頸部癌治療で重視することは、加療後の可能な限り在宅で、安全に口腔摂取が出来、安全に呼吸できる状態を確保することです。病気は直ったが、経管栄養や点滴で生涯を終えるような状態は主治医として、可能な限り避けたいものと考えております。また、頭頸部癌はその3割強が多重癌になる可能性を秘めております。第二の癌の早期発見・早期治療を絶えず心掛けております。

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